文 / 三船ゆい
幾日も忘れられた観葉植物が身をよじって身体を支えている。
「お水をあげなくちゃ。」
振り向けば、すぐ洗面台の水道の蛇口に手が届きそうなものを
身体のほうは、じっとしてほんの少しも動きたがらない。
こんな時、自分のことを少しだけ攻める。
今までなら。
でも、この日は違った。
私も同じ。
草花ばかりを気にかけている自分は?
鏡に映すようにうなだれていやしないかと
気の毒に思う矛先を変えてみた。
そうだ。私が世話をしてあげられないなら、この子を、この草を、
土に返してやった方が. . .
そのほうがいい。あなたにも、私にも。
と、そこまで考えて、サボテンの仲間の多肉植物が
寒さに弱いのは当たり前と
元も子もない思いつきに
またほんの少し、
最初から愛情など希薄なんだと自分を攻めた。
また、一歩一歩階段を上るように
だったら、小さなビニールハウスでも作ってあげたらいいんだと、
そのまま枯れてしまっても、
もし春まで生きていても、
とにかく土に返してやって、少しだけ手間をかけてあげたら。
誰かに教わった訳でも、
熱心に本を探して調べた訳でもないから
なんだか春になるのが待ち遠しい。
答えがわからないからこそ。
自然の摂理にかなっていると
根拠もなく湧き上がる自信が
萎れた気持ちの渇きをとめた。
悪い事したなと、眺めたあちら側の植物に
想いを寄せてみた。
野原に立つ赤いドレスを着た人が
振り返って西洋の女優のように
晴れ晴れと笑う。
彼女を覆っていた薄いベールが
風に飛ばされて空に広がった。
そして、芝居の中のセリフのように
おどけてこう言った。声を張り上げて。
「ごめんあそばせ。土に帰らせていただくわ。」
気がかりを解き放して緩んだ表情の空に
そう別れを告げた。
三船ゆい Yui MIFUNE
1972年生まれ
長野県山ノ内町在住 自営業
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