キッチン (四) ー命のバトンー

文 / 三船ゆい

真っ白に真っ平らに広がった空間に
子供達が絵を描き始める
思い思いの
そこにまた かつて見た風景を見つけましたか?
新しいと感じるのは何故だろう?
思い思いのその前に
私の御守り替わりだったその言葉を
・「これは運命なんだよ。」
・「自分が悪いと思う事はしなければいいんだよ。」
・「家の中の事は決して人には言ってはいけないよ。」
小さな小舟が、これから渡る大きな海を前に握りしめていた三つの御守り
言葉は一人歩きして
誰のためにもなってくれる
そう思って、此処に明かしてみる
母にとって、たぶん一番雪の深い年
彼女の命の灯は消えた
ああ
母とはいかに強い人であったか
自らを焼き尽くす強靭さ
厳格な月
静かな月の表面に降り立つ
聞こえもしない声を
無理やり引き出して
私は私の口を借りて応えた
「我が身は土である」
あるいは. . .
嘘をついたのかもしれない
人は亡くなって初めて、その顔の裏側を見せてくれる
私にとっては、私の方が世話を焼かなきゃならない
優しいお調子もの、可愛らしい母であった
一番好きな女将さんだったって
お花を習っていた仲間の人が言っていたよ
ごく親しい人が教えてくれた
もう一人の母
内側と外側のような一枚の壁
新しい芽を育む地平であると
「静」と「陰」を駆けずり回って探した
知性の土壌
小さな種の殻の中
このまま深く雪と大地に沈められるかもしれない
温かい子宮の、その中に永遠に
母の亡くなった時も
人というのは不思議なもので
悲しいはずなのに冷静に日常をこなす自分がいる
若い頃には許せなかった矛盾も
そういう事もあるものだとわかるようになる
やみくもに答えを探すより
彼女がいつも私に向けていた笑顔を
命の記憶
私の真実は私の中にある

ー完ー

三船ゆい Yui MIFUNE
1972年生まれ
長野県山ノ内町在住 自営業