キッチン (二)

文 / 三船ゆい

そうだ、この感覚。
この場所だ。
居心地がいいのはキッチンのせいじゃない。
私が動かしているともなく動いている手。
ここだと思うと離れてしまう…。

水の音を聞け…

蛍光灯の…流しの…ステンレスの…反射して…再び…

移る記憶

ストーブの炎
(大きくなって)とストーブに話かける
炎が大きくなる

(踊ってみて)
炎が揺れる

(右に…)
少し右にながれて

偶然が三度重なっても
ただの偶然

居間に置かれた大型テレビ。
スイッチも入っていないのに大きな音をたてて、左から右へ画面をカミナリのように光が走る。

(そろそろ壊れると思ってた)

一、二ヶ月前から、左と右のスピーカーの片方がボツボツ音をたてていた。

頭の中を妄想とも、瞑想ともとれない何かに占領されてしまい、口から言葉を吐き出す。

「縦に三度、横に一度…。」

別に意味はない
思考を整理しただけ

「縦に三度、横に一度…。」

徐々に我に変える感覚
意識は地に足を着けるよう

それでも、一点を見つめて、形を形と認識しなくなり、黙していると再び、思考に意識が戻っていく。羽が生えたように。

痛々しい記憶ほど
景色がかわると
輝き出し
捨てがたい宝石のように
再び取り出して
愛でたくなる

問いかけは、いつも答えがセットになっていて。
まだ現れていない柑橘類の筆あとのようにすでにそこにあって。

熱に炙り出されて

脳裏に焼き付き

燃え上がって消滅していく

「振り返らず」

つづく

三船ゆい Yui MIFUNE 1972年生まれ
長野県山ノ内町在住 自営業