戒壇巡りを終えて

文 / 川合朋郎

始まり 洞窟から出ると決めた人 油彩/ 蜜蝋/ キャンバス 46x46cm

長野駅のコインロッカーに預ければよいものを世話になる町田さんや梅田さん、図書館の人達へのお土産と大きなリュックを担いだまま善光寺へ向けて歩き出した。少し行くと道の左手に道祖神を見つけたので今回の旅の無事を祈る。
途中ノザキカメラ店とカメラのヤマモトに立ち寄り、更にぶらぶらと歩いて行くと程なく善光寺に辿り着いた。
前日に東京のギャラリーでお会いした中村さんから善光寺の歩き方を伝授されていたので迷わず仁王門の裏側に回り込み隠れた彫刻を観察する。大黒・弁財・毘沙門の三つの顔を持つ三面大黒天は本当に奇怪であった。仁王像と同じ高村光雲と米原雲海の師弟合作であるとのこと。
もう一つの目的である善光寺名物お戒壇巡りをしようと本堂に入ると大人500円だという。極楽浄土行きが約束されるのだから安い。
靴を脱いでビニール袋に入れて持たされるので更に荷物が増えてしまった。
両手提げ袋にリュックで戒壇巡りをしている人は他に居ない。
渋滞する爺婆達の列に混じって階段を下って行くと少し歩いただけで真っ暗闇に包まれた。入り口の立て札にあった『右側の壁の腰の辺りを触りながら進め』の教えを読まなかったのだろう、左の闇から「こりャなんにも見えないよ~」という陽気な婆さんの声が聞こえる。連れの爺さんが「駄目だヨ右の壁を触りながら進まないと~」と言っている。
まったくなにも見えないけれど爺婆の列が渋滞していることは分かる。ときどき前を行く婆さんの足を蹴ったり白髪らしきゴワゴワした髪質に触れてしまったりする。「あ、すみません。」と言うが特に返事は無い。
相変わらず私の後ろを歩く爺婆仲間は明るく話している。「大丈夫だヨ前の兄さんのリックの紐を持ってるから」という爺の声がする。どうやら私のリュックのヒモを頼りに進んでいるようだ。
なんだか本当にあの世に向かって歩いているような気がしてきたな。
たぶんこんな感じなんだ。
ガチャガチャ
鍵をならして明るい地上へ帰ってきたら何故だか笑顔になった。

川合朋郎 Tomoro Kawai / 1976~ Born in Osaka,Japan 
静岡県三島在住 画家
東京芸術大学卒
tomorokawai.com

作品展のお知らせ
トポステラソ 川合朋郎 2012年10月28日(日)〜2013年2月3日(日)
toposnet.com
於 : まちとしょテラソ
開館時間  9:00 – 20:00
休館日  *火曜日(火曜日が祝祭日の場合は、開館し振替日はもうけない)
     *月末整理日 *蔵書整理日