えっ? 私が、ですか?

文 / 島田浩美

ある初夏のこと。権堂にあるライブハウス・小劇場のネオンホール代表でもあるカメラマンの清水さんと、朝から昼食も食べずに夕方までぶっ続けの取材をした帰り道だった。そんな究極の空腹時、突如、助手席の清水さんがこんな話を始めた。
「実は今年、ネオンホールがオープン20周年を迎えるんですよ。」
「そうなんですかー。おめでとうございます。」
「それで、記念公演として寺山修司の『邪宗門』を上演する予定なんですが、今日はそのミーティングがあるので、打ち合わせ場所の和光照明まで送ってもらって良いですか。」
 和光照明といえば、代表の中沢清さんは、寺山氏率いる演劇実験室「天井桟敷」に在籍し、多数の海外公演も経験し、現在は「演劇実験室カフェシアター」を主宰する長野アングラ演劇界の重鎮!
「今回は中沢さんに演出をお願いしているんですよ。」
「そうなんですかー。」
「で、10日間のロングラン公演をしようと計画していて。」
「すごいですねー。」
 観劇はしたことがあれど、役者というのは私とは無縁の世界だな。そんなことを考えていると、清水さんがひと言。
「で、この演劇に島田さんも出てもらおうと思って。」
「えっ!」
 この、演劇の「え」の字も出したことがない私が!?
「 初耳ですけど。」
「今、初めて言いました。」
「いや、でも、私、演技とかしたことないですし……。」
「みんなで歌ったりする、楽しい演劇だから大丈夫ですよ」
「……(えっ! 寺山修司の演劇なのに、楽しい……!? )」
「バンドマンとか、普段演劇したことがない人にも声をかけてますから。」
「いや、私、人前で歌ったり、ステージに立ったことすらないですから……。」
「台詞がない役の人も多いし、裏方も必要だから、そういった役になると思いますよ。」
 若干の興味がない訳ではない。せっかくのチャンスだし、やってみようか。いや、しかし、私が演劇って……。自問自答をするも間もなく、和光照明に到着。しかし、結局は頼まれごとを嫌とは言えない性格と、好奇心旺盛の性格がうずき(こっちが主)、
「じゃ、ちょっとやってみようかと思います。」
そう答えてから、早3カ月。週一の稽古を重ね、私の配役は、さて……。
11月9日から10日間、ダブルキャストでお届けする『邪宗門』にて、新境地開拓なるか!? 皆さま、乞うご期待を……?
(注:念歌って楽しい演劇という表現は少々語弊があることを、念のためお伝えしておきます……)

島田浩美 Hiromi Shimada 1979年飯綱町生まれ 長野市在住
編集・ライター 
2002 年信州大学人文学部卒業
2003年~2005年間世界一周旅行、帰国後、地元出版社勤務を経て、2011年元同僚とch.books オープン
フリーペーパー『チャンネル』を隔月で発行
shimada@chan-nel.jp
http://chan-nel.jp/