かがみ

文 / スズ≠ アキノリ

睦月◯日 曇
ある日私は紐で一人の盗人を捕まえました。
それは幼い女童で、愛を知らない、とても不憫な子でありました。
しかし緩めるわけには行きません、周りの人たちは皆迷惑していてこの子を逃すまいとしているのですから。
できるだけきつく締め上げろと言います。
しかし私は彼女の辛そうな痛そうな恨めしそうな、泣き出しそうな、噛みつきそうな眼差しと、苦しげな吐息を前にして、どうにかこの子を楽にしてはやれないだろうかとそればかり考えるようになりました。
私は、せめて、私が縛るこの結界の中でこの子をしっかりと抱き締めて守ってあげたかったのです。

それならば逃してやればいい、とお思いでしょうが、そんな度胸は私にはありません、咎を受け、ここで生きていけなくなってしまいます、他に生きていくあてがない私にとって何より恐ろしいことです。

ーーそれに私は、かの女童を捕まえて世話をしているうちに、なんだか親の気持ちにも似た、扶養する実感であったり、ある種の優越感が心地よくて、、、。縛ってある間は逃げもしませんから、、、ーー

そこで、初めていろどりを得た私と彼女の日々を此処へ記そうと思い立った次第であります。

以下、明日の私と彼女を記す。ーー 【続】

スズ≠ アキノリ Akinori Suzuki
1986年ドイツ・デュッセルドルフ生まれ
俳優、朗読家
ダンサーを経たのち故・蜷川幸雄氏に師事、俳優になる。国内外の舞台に立つ傍ら様々な創作活動を実施。

gekkeikan.co@gmail.com
https://www.st-rain-ak-inori.com