最近私は元気です。なぜなら

文 / 船橋小夜子

私は友人から自転車を譲ってもらった。
ドンぴしゃで折りたたみ自転車が欲しかったので、
すぐさまドンキや百円ショップでライトなど装備を調達し、
喜び勇んで友人宅から乗って帰った。

5分ほど漕ぐと、脚全体が痛い。
10分乗っただけで脚がパンパンになってしまった。
ギアは1段にしている。
おかしい。
パンクかもしれない。

だましだまし漕いでいたが、脚が限界を迎えた。
降りて押す。
結構な重量があり、楽に移動できるはずの自転車はただの荷物になってしまった。
奴隷が荷物を運ぶそれのように汗びっしょりな私を
次々に通常運転の自転車が追い抜いてゆく。
夜一人で自転車を押している自分が恥ずかしくなり、余計さみしさが増してくる。
自宅に着いたのは、予定時間を2時間ほど押した23時であった。

それから自転車で脚が痛くなるか色んな人に聞いた。
そんなことはないという回答ばかり返ってくる。
やはりパンクなのか。

それから何週間後、自転車屋に持っていくと、
空気が抜けているだけかもしれないので入れて様子を見たらとのアドバイス。
50円で空気が入れられるらしい。
使用方法が分からなかったので店員のおばちゃんに聞くと、
「私がやると100円になるよ。」
「えっ」
急な展開にしばし固まってしまった。
不条理なシステムだ。
その店で買った自転車なら無料なのだそう。
町の自転車屋はそりゃあ稼いでいくのは大変だろうが、微々たるものだなあ
でも少しでも足しにしないとだしなあ。など、色々思い巡らせてしまった。

おばちゃんは結局使用方法を教えてくれ、50円で済んだ。
そんな抜け道が!得したような、そうでもないような。
でもありがとうおばちゃん。
最後に使われたのがいつなのか分からないオレンジの箱にお金を入れ、バルブに押し当てる。
シューっと音がする。
空気が入っているようだ。
少し乗ってみると、大丈夫そう。
そのまま様子を見ることにした。

何日か後、知人宅に行くため20分ほど連続で乗ってみた。
なんだろうこの爽快感。
鼻歌が自然に出てくる。
よく自転車で大声で歌っているのを「みんな聞こえているのになあ」と思っていたが、
そんなことは関係なかったのだ。
聞こえていようが、
歌いたい。
それだけだ。
なんだか気持ちがよいのだ。
音楽を聴きながら乗るのは危険なので、セルフで賄う回避機能が人間には備わっているのかもしれない。

脚力がないため
田舎の優雅な昼間のおじいちゃんなスピードしか出ない。が、
少しの疲労感と歩いては出ない速度がほどよく楽しい。
だんだんバランスを取るのも上手くなってきた。
細い道も降りずにスピード調整できるようになり、歩行者や対向自転車との間合いもバッチリだ。
初めて乗れるようになったような嬉しさ。

知人家に着いた頃には
すっかりテンションがあがり、面白くてしょうがない。
なんだか元気になった。
これがアドレナリンというものか。
ジェットコースターと同じ原理だ。
自転車は、私の中で効果的な中毒性運動に認定された。
はやく自転車に乗りたい。
降りたのにもう乗りたい。
脚が痛いしハンドルを長時間握ったため、親指付け根が若干の筋肉痛。
でも乗りたい。
乗らせてくれ。

私は忘れていた。
自転車に乗ったのは約10年ぶりで、歩行以外の運動をしたのも約10年ぶりだったことを。
結果自分の脚力が異常に無くなったことに気づいたのだった。

船橋小夜子 Sayoko Funabashi
クリエイター

1984年青森県八戸市生まれ・東京都在住
2007年 東洋大学社会学部 社会文化システム学科 卒業
2009年 桑沢デザイン研究所 卒業
学生時代よりITコンテンツ企業にてモバイルサイトデザインを制作。
その後、呉服店勤務を経て、WEB関連企業でデザインをしながら
フリーランス・クリエイターとして活動。
info@funabashimisako.website
http://funabashimisako.website/