文 / 丸山玄太
私がその半身を失って目にした光景は、それでも色づく世界でした。灰色に染まると聞かされていた世界は、相も変わらず色づいたままで、寧ろ以前よりも鮮やかで、明瞭でさえある。見えるものすべてを仔細に見澄ましても、綻びの糸口すらみつからないこの強固なまでの普遍性を持った世界は、脆弱で儚く崩れ去った私の見ていた世界と同じものだったのだろうか。身体を、腕を、手を、指先まで思い切り伸ばしてみても、今では触れることすらできないこの世界と。
燻らせた紫煙も世界から色を取り去ることはできず、酒も鮮やかさを膨れ上がらせるばかりで、失った半身を埋めることも、忘れることも、世界を元に戻すこともできない。耳鳴りと目眩をあちらからの交信のように抱きしめ、夜と契りを結んだ私に、昼が暴行を繰り返す。瞬間を永遠と感じさせるように。前進を後退と感じさせるように。
私は半身を求めて彷徨う。嗚咽すら呑み込む必要のない静寂の中で、世界をこれほどまでに鮮やかに、眩しく見せる暗闇の中で這い続ける。ここから見る世界は、何と美しいことだろう。ただひたすらな存在だけがある。これほどまでに残酷な選択があろうか。痛みも、苦しみも、生も死も遠のいた観念への魅力。しかし、表皮を剥ぎ取られ、肉を削りながら、それでも、脆弱で儚い世界に存在することを私の半身は求める。欲望と幻想と残虐の世界を。いつまた崩れるともわからぬ色づく世界を。いつか、両の足で地面を踏みしめて、両の腕で愛する者をきつく抱きしめるために。
丸山玄太 1982年長野市生まれ 東京在住 クリエイター
undergarden主催
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