風の工房

文 / 武捨和貴

 まず最初に、この文章を書いているぼくのことを。社会福祉法人かりがね福祉会という「障害者」をサポートする事業を行なっている団体の中で、主にアートや表現活動によって、そこに参加する人々をサポートする事業を行う場所「風の工房」で働いています。長野県上田市真田町の上田市地区から菅平へ向かうR144の脇道を入った場所そのアトリエはあります。風の工房は「ものづくり」と「つくりて」たちの場所【ワークショップ】です。日々、18名前後の方が通います。現行の障害者福祉の法律「障害者自立支援法」に基づく生活介護事業所というのが正式なこの事業の位置づけになります。

 次に、障害者の表現活動が今、どう社会や世界に受け入れられているか、を。アウトサイダーアートやアールブリュットと言った「正規美術教育や伝統的な訓練を受けていない」「地位や名声の為ではない」「流行やモードに依らず自分の表現欲求に純粋」なアートとの親和性の中で、近年「日本のアウトサイダー・アート」や「日本のアール・ブリュット/アール・ブリュットジャポネ」として海外に輸出されたことで、日本に逆輸入するかたちで現在、何人かの作家や作品が注目されています。こうした福祉施設の中で生まれた作品も含むアートはTVドラマ裸の大将のモチーフとなった山下清だけでなく、『アウトサイダー・アート』(服部,2003)などが取り上げたように日本でも、どうにかこうにか「評価」する言葉や文脈を探し(むしろ探り)始めたと言えます。そして、その導火線の役割を果たした動きが90年代初めに起こった「エイブル・アート・ムーブメント」だったことを忘れるわけにはいきません。現在、その運動はアートという可能性の拡張性をコンテポラリーな時間や空間の表現、ダンスや音楽の中にも見出し、または積極的なかたちで資本の仕組みとして施設と社会を繋ぐ仲介組織「エイブルアート・カンパニー」を設立しました。日本における障害者や入所施設、精神病棟の中で生まれた作品は、その社会構造的にも閉鎖的な環境に置かれながらも多様な価値観を、作家以外の支援者や鑑賞者、関係者が積極的に見出していく過程を今、丁度通過しているところでもあります。

 そして、再び風の工房について、です。風の工房自体のアート活動の取り組みは15年を過ぎました。もし表現の生々しさが風の工房の作品にあるのであれば、それは単純かもしれなですが、作家自身が真剣に面白がってカッコイイ絵を描こうとしているからかもしれません。そして、根本にあるぼくらの活動の芯こそ、「人が生きる」という表現を大切したいということです。長野県内の公立美術館での企画展へ参加できるようになりました。同時にギャラリー以外の、例えばルヴァン信州上田店やアートスペースFLATFILE、ナノグラフィカへの企画や出品と、オルタナティブな場にも展示しています。FLATFILEでは、2名の作家によるライブペインティングを行いました。絵を描き、売る。シンプルですが障害あるなし関わらず真摯な交流の可能性がこうしたオルタナティブな場にはあります。表現や作品に触れ感動し、言葉になる前のインスピレーションが作品と人を繋げ、人と人を介すことが「場=メディア」をつくるのだと感じています。あくまでも個人的な勘ですが、ライブペインティングした絵がその場で落札されたとき、そこで起こった出来事は決して障害者への慈悲なんかではなく、何か言葉にならないパワーを感じた鑑賞者と作家の真摯なコミュニケーションだったのではないか、と。何か新しいシーンが始まるとき、人と人の言葉にすれば零れ落ちてしまうような閃きがあるのだと思います。そんなキラキラと輝くインスピレーションが連鎖する場としてFLATFILEが盛り上がって行って欲しいです。

武捨和貴 Kazutaka Musya 1982年長野県生まれ。社会福祉法人かりがね福祉会 風の工房主任
社会福祉法人かりがね福祉会 風の工房
〒386-2201 長野県上田市真田町長2464-1
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