通じる昆虫

gotonami10


文・画像 / ごとうなみ

 久しぶりの山で昼間からひとりで焚き火をしていたら一羽の鳶が上空を旋回した。チームベンチに寝そべっていたのでそれがよく見えた。手を伸ばして「ここだよ」と合図をしたら鳶は二階建ての屋根より少し高いところまで降下してきて品定めをするように焚き火と私をぐるぐる回ってまたさっきと同じように上空へもどって旋回した。しばらくしてまた同じように大きなぐるりをつくりながら今度はゆっくり降下してきた。鳶と私の目があった。「油揚げはないよ。」「獲物はいないの。」起き上がって念じたらもっと近くに来るかなと思って念じてみた。でもそれ以上には来なくてやがて鳶と私の興味が互いに薄れた頃林の方へ飛んで行って消えた。野生だしな。獲物がいなければ用なしだよなと納得して野生の本気ぷりを模倣してみた。
 
 そういえば以前住んでいた山の家には黄色スズメバチが2階南側の窓辺に大きな巣をつくったことがあった。注意して見ていなかったけどきっと春先には小さな巣からスタートしていたんだろうと思う。夏ごろに気付いた時にはそれは見事な巣になっていて黄色スズメバチ達は雑草が生え茂る庭を忙しく飛び回っていた。でも、なんというか、私には持論があって「蜂は気が通じる」と思っていたから特に巣を退治するとかするでもなく、お互い差し障り無く共存していた。当時こどもたちは多分小学生と保育園くらいだったかな。「蜂は怖がるとピクッて反応してこっちに興味をもつから普通にしてたらいいからね。まったく気にしなかったら蜂も全然気にしないんだからね。こっちが「やべっ!」とか「怖いっ!」とか思った瞬間にその気が蜂に伝わって蜂は「ん?何何?」って反応してくるから、もしそうなったらいつもどおり気にしないように気持ちを落ち着かせるようにするんだよ。そしたらそのうち蜂もまたいつも通りに戻るから」と教えていた。でもホンマそうなんや。黄色スズメバチは結構大きかったけど私達家族を一回も刺すこと無く秋に一生を終え死んでいったし。彼らの気配が無くなった頃、残された大きな巣の中身が気になって煙でモクモクした後から友達のよし君にのこぎりで取ってもらった。大人の女性(私)が両手でちょっと重たいと感じるくらいの重さで胸を広げてようやく抱えられる位の大きさ。のこぎりで縦にまっぷたつに切ってみたら外の柄と似たような迷彩状の小さな室がたくさんあってそこに蜂の幼虫が沢山いた。気持ち悪かったなあ。でもきれいやった。固唾を飲みながらずっと見入ってた。最後ためらいも無く焚き火にくべたけど、後から聞いた話黄色スズメバチの巣は結構縁起ものだったらしくとっておいたらなにか良いことおこったかもしれないなあ。でもまあ燃やして正解だったと思う。
 
 通じる昆虫でいえば蠅も通じる。残飯を庭の隅に土ほって埋めていたから夏場になると蠅が数匹飛んでくるんだけど、蠅は殺気感知能力がさすがに高い気がした。(成虫蠅の場合だけど)ブンブンブンブン顔の周りをまとわり飛んでいていい加減しつこい時一瞬本気で「殺す」と思うと途端に蠅はサーッてどこかへ姿を消す。殺気を感じ取ったんだと思う。ポイントは本気で「殺す。」と思うこと。本気度が低いと甘く見られてまとわりつくのをやめないから。あとタイプは違うけどカマキリは宇宙人だと私は確信している。彼らは意思の疎通が出来るというより人間をコントロールするだけの超能力などを隠し持っている気がする。一度こどもたちを保育園へ送ったあと部屋に掃除機をかけていたら2階の奥の当時アトリエにしていた部屋のちょうど真ん中にカマキリが居た。土色のカマキリでたぶん老虫(って言うのか?)。見つけて一瞬「うっ・・」と部屋に入るのをためらったけど(昔からカマキリが苦手だったので)ピクリとも動かへんかったしもう死んでると思って、意を決して掃除機で吸おうと覚悟して部屋に入って行った。ノズルをカマキリに近づけていざっ!ていう距離になると弱気な私がへこたれて「あかん!できひん!」としどろもどろ右往左往していた時、そのカマキリが鎌を持ち上げて抵抗の姿勢を見せた!「ヒエ~~泣」掃除機を放り出して階下へ逃げ近所のみおちゃんに電話した。「ん。じゃあ行くわ」と言ってものの数分で来てくれてすたすた部屋に入って手で、手で!掴んで窓から投げ捨てた。「なみちゃんな。掃除機で吸うほうが残酷やで」と捨て台詞を吐きすぐ帰って行った。掃除機で吸ってしまわなくてよかった。吸ってたら今頃呪われていたと思う。絶対そうやと思う。そのくらい彼の鎌挙げには生命渾身の迫力が込められていた。だからカマキリも通じる昆虫だと思う。

 通じない昆虫もいる。ミミズ。下の子がまだ2歳の時草むしりをしていた私の傍らに立ってた。彼はいきなり何を思ったかしゃがんでミミズを捕まえた。しかも相当大きいサイズで太さも小指くらい。むしる作業に夢中になっていた私はそれに気がつかなくてでもふと後ろを振り返った瞬間その姿が見えて動揺した。「ア”~!!!」としか言えなかった。しかしその声に何故か息子のスイッチがどこかに入ってしまってそのミミズを食べようとした。私は、もう死にそうになった。言葉は出ないね。あんな時には。ぐお~~~汗とかそういった音しか出せなかった。叫びか。けどその気迫のおかげで息子の手がゆるみポタッとミミズを落としたから難事を免れた。ミミズを食べていたら以後同じように彼を愛してやれたか到底自信がないけどミミズは絶対通じないなと思った。こうして思い出すと山は虫だらけやったなあ。虫だけじゃなくて空も風も木々も狸も雉もリスも野うさぎもそういう自然の中に住んでいるいのちたちがとても身近にいて知らぬまのいつでも会話していた気がする。

 さっきのチームベンチに寝っころがりながらさっきの鳶今日はもう戻って来ないかなとぼんやり想っていた。起き上がると部屋の窓から良い匂いがしたのでさっきの鳶のことを話そう!と思って家の中へ入った。つくってくれた美味しい昼飯を食べながら鳶のことを話していたら雨が降ってきた。焚き火の残り火もこの雨で消えたようだ。
雨も通じる気がする。気持ちが現れる。洗われる。

ごとうなみ 美術家
1969年生まれ長野市在住
http://nami-goto.jimdo.com

「繭玉のジュレ」トポス高地2014_04 2014年8月1日~31日 長野県上水内郡飯綱町欧風料理店アリコルージュ