わかるということ Ⅱ

文 / 徳武安紀子

前回に引き続き私の人生二度目の「わかった」瞬間のことを書きますね。
私は、一時ある小劇団に所属していました。そこは、年配の方の多い、いたって真面目な劇団でした。
前回書いた人形劇団に愛想をつかして、その反動で入ったところです。そこは、元をたどれば「葡萄の会」につながる、という由緒正しいところだったのですが、そんなこととはつゆ知らず、ただノホホンと入団しまして…。
大先輩の方々は、それはそれは素晴らしい役者さんたちでした。あまり多くを学べないうちに、結婚して長野に引っ越してきてしまいましたが…。井上さんという方は、「語り」もうまく、「猿が架けた吊り橋」というお話をされた時は、何度目をこすっても、その姿がどうしても大きな大きな猿にしか見えなくなって、心底、驚いたことがありましたっけ。
その劇団の研究生公演に出演したとき、私は初めて準主役という大きな役をもらいました。それは「主役の分身」の役で、一人の人間が二人いて、いろいろな騒動を起こす、というお話でした。私は、演出家の言う「分身は、とにかく、一生懸命なのよ!」という意味がずっとわからず、セリフを「ワ・レ・ワ・レ・ハ・ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ」みたいにしゃべり続けていたわけです。とうとう、演出家も頭を抱え、諦めてしまいました。
私もどうしたらいいのか、途方に暮れるやら、情けないやら…。そこであるとき、突然開き直ってものすごく大げさにやってみたのです。あまり深い考えもなく。相手役は面食らって棒立ちになってしまいました。当然おこられると思ったのですが、そこへ演出家の鋭い一声「それだ!!」ところが、当の本人には、何の事だかさっぱりわからず、次の日の練習は、また「ワ・レ・ワ・レ・ハ…」に逆もどり。そのまま公演日をむかえたのでした。
全部で三回の公演の初日、当然「ワ・レ・ワ・レ・ハ…」のまま終えて、終了後のダメ出しは、演出家の溜息ばかり。重い足を引きずって、二日目の舞台に立った私。一場を終え二場の出番を待っている物陰で、突然「分かった!」と思ったのです。でも、何が分かったのかはわからず、ただ頭か心のどこかで「わ」「か」「っ」「た」「!」という五文字が一瞬光り輝いたみたいです。「今のは何なんだ?」と思いながら出た二場の舞台で、私は、見事に演出家の指示どおりの演技をやってのけた、という訳です。(エヘン!)…何の自覚もなく…終了後のダメ出しで、「二場の頭からできてたね、明日もその調子で」と言われて、うれしいけれど内心ポカン
…。皆の笑顔の意味がわからないまま臨んだ三日目の舞台、開演前の舞台そで(といってもいつも使っているロッカーのかげ)で着替えていた時のことです。目の前の幕の向こうのお客様の声が聞こえたのです。
「分身の役の子がいいのよ。初日は全然ダメだったんだけど、昨日の途中から急によくなってね…」
あーあ何ともうれしい瞬間でした。が、三日目も演出家の言う通りにできたかどーか、もう記憶は定かではありません。
それにしても「わ・か・る」というのは、不思議です。本人が「わかって」ないのに、いったい誰が「わかった」のでしょうか?それこそ、私の中にもう一人の私(分身)がいたのでしょうか?
……テケテケテケ……お後がよろしいようで………
以上

徳武安紀子 Akiko Tokutake 1955生まれ
明治学院大学卒業劇団民衆舞台所属30才で飯綱町に転居
料理店アリコルージュ開店現在にいたる。
欧風家庭料理アリコ・ルージュ restaurant haricot rouge
電話026-253-7551

マリオネットオペラ vol.3[カルメン]CARMEN / G.Bizet
企画・制作 いいづな山妖精協会
共催 くろひめ山妖精協会  
チケット取扱い:ながの東急プレイガイド、料理店アリコ・ルージュ 
お問い合わせ先: ☏026-253-7551(徳武)
2014年6月7日(土)午後5時 開場・午後6時 開演
長野市東部文化ホール(柳原総合市民センター)
一般 ¥1.800 (当日 ¥2.000 )