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文・写真 / 松田朕佳
ほんの少しの言葉も知らないから黙ってる。なに考えてるんだろ。向かいのアパートの洗濯物、逆さに吊られたTシャツのミッキーマウス。飛び立った二羽の鳩、猫の鳴き声、窓。テーブルクロス、ルイボスティー、サトウ。やっとみつけた言葉の、あまりの平凡さに驚く。「お湯、出なくてごめんね」水のシャワーを短く浴びた。
地球が回転するおかげで洗濯物は乾くけど、おかげで私も年をとる。
朝が来て夜が来て明るくなって暗くなって電気をつけて電気を消して
未来は暗いと死んでいく老人たちは嘆き
生きているのが楽しくて仕方がないと私たちは笑う
あるとき３３歳の人間が全人類の罪を背負って死んだ
私の罪は私のものだと彼女は言った
これは遊びじゃないんだ、ルールを守れ
ルールがあるならゲームじゃないか
スカリフィケーション、ビーガン、ホモセクシュアル
どうだい、ぼくって変わり者だろ？
指紋を剥がしたばかりの、血の滲む五本の指を満足そうに眺めてる。
パンクなんだよ、ダダなんだ。
そうよ、あなたは特別よ。他の誰もがそうであるようにね。
詰め込まれた真っ黒な木炭に口の中の水分はすっかり奪われ、大気に引きずり出されるように嗄れたうめき声ばかりが口の外へと流れ出す。
昨日の君は仕事がないと文句を言うのに今日の君は休みがないと文句を言う。
空き家ばかりの町にホームレスは溢れ、家がないと文句を言う人と家が売れないと文句を言う人は同じカフェのテーブルで夜な夜な酒を交わす。
議論は結果を導く為にしているんじゃないんだ。ただの昼食の話題に過ぎないよ。きみが犬に「ネコ」って名前を付けようと、それはただの名詞に過ぎないし、猫に洋服を着せてリードで散歩してたって、それを犬だとは誰もいわないよ。
政府が悪いとか天気が悪いとか暑いとか寒いとか。
ケーキ食べる？
眠れないといって薬を飲み、起きれないといって薬を飲む。
コーヒーはいかが？
誰も持っていないものが欲しいとか、人と同じものが欲しいとか。
まだワイン？
金で買えないものが欲しいというから空を売ってやったのに、すぐに別の誰かがやってきて雲の権利を主張する。
やっぱりアイスクリームにしよう。
何喰わぬ顔で飛び回る鳥は空に
埋め立てた豚の上で未だ牛は狂乱している
最初の羊はクローンの群れで迷子のまま
壁を壊して平等に
壁で囲って独立を
平和の為の共通言語は訛りが消えず
存続の為の固有言語は片言に
人類が見つけてしまったオイルの為
ピラミットを造ろう、もう一度
オリンピックを開催しよう、尽きるまで
私のはフクシマ
僕のはチェルノブイリ
やさしくなろう
やさしくなろう
ベジタリアンになろう
性転換してレズビアンに
きみの世界が平和なものでありますように。
松田朕佳 Matsuda Chika 1983年生まれ 美術家
長野市在住
ビデオ、立体造形を中心に制作。2010年にアメリカ合衆国アリゾナ大学大学院芸術科修了後、アーティストインレジデンスをしながら制作活動をしている。
www.chikamatsuda.com
マツシロオルタナティブ 2014年8月3日〜9月30日 池田満寿夫美術館
トポス高地 2014年10月1日〜10月31日 アリコ・ルージュ欧風料理店 上水内郡飯綱町
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