ドラムサークルの始まり方

文 / 塩津知広

リトミック長野合宿2013 / アルカディア飯綱

リトミック長野合宿2013 / アルカディア飯綱



 さて、円くなって座り楽器も用意できました(なんのことかわからない方々は”branching-04″をお読みください)。「どうなるのかな?」とドキドキです・・・というよりは、数々の楽器を目の前にして「どんな音?」との興味が沸くのはあたりまえ、叩いてみたり手にとって振ったりといった行動が自然と発生します。オトナでもそうなんですからコドモが多いともうタイヘン、気がつけばいろんな音が鳴りまくっています。開始を告げようとする声は大小高低強弱多種多様雑多な音にかき消されてしまい、みなさんの耳には届きません。

 そこで「みなさーーーん!はじめますので静かにしてくださーーーーいっ!」なんて無粋な大声は出しません。混沌とした音の海の中によく耳をすませば、キモチのイイ音の連なり(=リズム)が必ずや見つかります。それをドラムサークル全体へと広げていきます。同じように重ねて叩いてみたり、手を上げて注目を呼んだり、みなさんのテンポが自然にそろうように時間をかけて促していきます。自分の手にとった楽器だけに意識が向いていたみなさんですが、ここで自分以外の存在(=音)を気にし始めるのです。コミュニケーションの芽が出る瞬間です。

 この段階で私がリズムを提示してしまうと、「”私”対”みなさん全員”」の関係から抜け出すことが難しくなってしまいます。ドラムサークルの目的のひとつ「コミュニケーションを生み出し自分らしさを楽しむ」ことからはどんどん離れていってしまうのです。あくまでも拠り所はドラムサークルを構成するみなさんの中から産み出されなければなりません。

 また、楽器個々の奏法を説明することもしないです。その日に出会った楽器には自由なアプローチをしていただきたいのです。特にコドモたちの発想はすばらしく、こちらが思いもよらない楽しい行動を見せてくれることが多々あります。あまりにも自分の手や楽器を痛めそうな場合にはカンタンなアドバイスをしますが、ドラムサークルでは「いい音を出すための練習」に取り組む必要はありません。

 なんとなくそろってきた状態からは「そろっているキモチよさ」を体験していただきます。全体を止めてみる、数人ずつでやってみる、楽器の種類ごとに分けて演ってみる、自分と他人とのつながりをより強く意識していくチャンスが続きます。「他人に合わせる」ということをいろんなカタチで体験していくうちに、いつしか「他人も自分に合わせている」ことに気づくことでしょう。受信しながら発信する、従属と主導が次々と入れ替わる、リードしたらすぐフォローもする、みなさんの相互関係がますます強くなっていきます。

 ここまでくると「みんなでやっている」意識が強くなってきます。同時に集団行動に埋没することをヨシとせず、「ボクを見て!」「私を見て!」といった風に主張をする”音”が出現します。こういう音はとても強く、せっかくできあがりかけた調和を乱しがちです(ドラムサークルが少人数の場合には、この種の音にたやすく支配されてしまいます)。「キモチよさ」は「いやなカンジ」へと変わってしまいます。ここまでの時間で築き上げたものがカンタンに崩れ去ろうとしています。さあ、どうしましょう?

 続きは次号で。
 拙文、駄文、お読みいただきありがとうございました。

塩津知広 TOMOHIRO SHIOTSU 1965年福岡県北九州市門司区生まれ 長野県長野市在住 音楽講師 
1990~音楽教室講師として活動開始
2006年~「ドラムサークルながの」発足
drumcirclenagano@gmail.com
URL ドラムサークルながの