文・写真 / 鎌倉幹訓
バイクに乗っていて見かけたその車の後を、しばらく追っていた。
3ナンバーボディのリアフェンダーはアスリートの筋肉のような力強を感じた。
市街地を抜け、4車線道路に入る。
その車が、シフトダウンした瞬間、マフラーに残っていたカーボンを吐き、距離を離していく。我に返り、加速体制に入った時には思いのほか離されていた。
BNR32=SKYLINE GT-Rだった
あの時の光景は今でも鮮明に残っている。
何年か過ぎ、幸いそのクルマを所有することになった。
バケットシートは身体を心地良く包み、センターコンソール最上段には3連のサブメータが鎮座する。いやが応でも気持ちが昂る。
キーを回し、火が入ったエンジンは高めのアイドリングを保ち、独特な低音は、落ち着くまで少し荒々しい。
クラッチは重く、踏み込む時よりも、離す時の方が神経をつかうミッションは、「カチッ」としたダイレクト感がギアとギアの噛合う感触を、左手に伝える。
アクセルを開け駆動系を馴染ませる様に走り出す。
市街地の低速域では、225mmのタイヤ幅がステアリングに、重さとなって伝わり、轍では、ステアリングが取られる。
最初の頃、その動きを捩じ伏せる様に握っていたが乗り馴れてくると、力を「抜く」操作が身についていた。
ワインディングで少しアクセルを開けると、エンジンは街中のそれとは違う顔を現す。
トルクフルなエンジンが、腰のまわりから押し出し僅かに遅れ、両肩の辺りをシートに押し付ける。フロントトルクメーターが、前輪に動力を伝えている事を示し、流れる光景を変えていた。
上り勾配でもアクセルを開け分加速し、エンジン音も低音から、直列6気筒特有の伸びやかな高音の響きへと変わる。
コーナー手前、シフトダウン、ブレーキング。
少しオーバースピードで進入してしまっても車がリカバリーし何事も無かった様な安定感でクリアしていく。
どこまでも回り続ける様な錯覚を感じるエンジンは、ハイウェイだと5速の上にもう1速欲しいとさえ感じさせた。
ドライブの後、車から降りると、軽い運動後の様な、心地良い疲労感があった。
思い返すと、この車で色々な所へ行った。色々な思い出があったけど。
この春で、ナンバーを外した。
今まで、ありがとね。
鎌倉幹訓 masakuni kamakura
1970年生まれ
長野市在住
ピアノショップポンド勤務
URL:www.matumotopiano.com
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