Monologue (XI)

文 / 丸山玄太

2月8日

酷い雪でしょ。もう連日こうですよ。新幹線が遅れたのもやはり雪の影響での ですか。架線の故障?あぁやっぱり雪ですかね。あれももう古いですから、新幹線なんて呼ばれながらも。可哀想なことですよ、新、なんて付けられて。そりゃあ付けられた時は新しいものだったんでしょうけどね。変えてやれないんですかね。私の名前、ここに表示されてますが、ひろおみ、と読むんです、大臣、と書いて。名は体を表す、という言葉があるでしょう。こんな名前を持つと事あるごとに言われるんですよ。そんな大層な名前を持ちながらなんだ、ってね。この諺に人生狂わされましたよ、まったく。どう転んでも大臣なんてものでは元々無いんですから。いや名前は気に入ってるんですが。新幹線はどうなんでしょうかねぇ。やはり新幹線のままでいたいんでしょうかねぇ。まぁこんな田舎にも停まってくれるならこちらとしては名が何でも良いですけどね。

所でお客さん東京の人でしょう。何台も乗車拒否されてましたから。一度乗り込んでから降ろされるなんて、金が無いか今は東京に住んでる人だけですよ。先日の、ほら、おかしくなったやつがあったでしょう。あれですよ。あれが感染るとかって噂になっていて。年寄りですと分かりませんけどね、お客さんくらいの歳だと皆さん入れてるでしょう。私は入ってないんで。でも、ほら、ちょっと前でしたか、昔の放射能の、調査記録って言うんですか、事後経過の、何十年も調べてたのが出てきたでしょう。タイミングがね。いや、そもそも論ですか。御上が意固地に否定するほど怪しいってね。真実は真逆にあるって仄めかすどころじゃなく、宣伝カーの上から拡声器で喚いてるようなものですよ。あれじゃあねぇ。宣伝カーってのも古いですか。

でも曖昧な情報で見えない何かを恐れてお客を逃して、それでどれだけ生きたいのかってのも思いますよ。何となく死から離れておきたいだけで、じゃあ長生きしてどうするんだって。しかもこんな街で。いや、私も仏になりたいわけではないですけどね。でも、まぁ、今日帰って酒を煽ったくらいまで生きていられれば取りあえずは。そのためだけの労働ですから。明日起きても昨日と同じ一日を過ごすだけです。働いている時は損なように思いますけどね、寝ている時にコロっと逝くなら何の問題もないですよ。酒を買うために働いて、呑んで、寝る。他に何があります、この世の中に。いや、他に何も浮かばないだけですかね、私の想像力では。美味いを酒好きなだけ呑むために身体に余計なもんをいれなかったおかげで、おかしな噂に振り回されずに済んで、いつもより稼げて、上等な酒にありつける。今が一番良いですかね。これ以上の生活は浮かびません。

酷いでしょう。ひっくり返って自慢できる程ですよ。こんなもんをバンバン建てたおかげで市は破綻。これも大分前の話ですけどね。素人目に見てもこんなもんを幾つも建てられるような税収があったとは思えませんよ。当時の市民は何を考えてたんですかね。まぁ私の親世代ですが。踊らされ易いんですよ、ここの住民は。私が成人したときにはもういつ破綻かって話でした。でもね、破綻後ってのは少しは潤うんですよ。一応は世界的に名の知れた町ですから、何だかんだと支援が色んなとこから来るんです。観光客も増えたりでね。で、それを奪い合うんですよ。一度破綻を経験しちゃってますからね。ギャンブルです。どこまで増やしてどこで退くか。田舎の助け合いなんてありません。自分、自分だけは兎に角生き残るってね。その上、裕福な暮らしも欲しい。都会みたいに相互に無関心じゃいられないから、少しでも上に行きたいんです、田舎の人は。恨み、妬み、羨みで支えあってるんです。まぁだから誰が初めだったかなんて分かりませんけどね、隣がこの街を諦めて出ていくと皆出て行く。そうしないと惨めだから。そうやってこの街には私らみたないな、当時若者で使い捨てられて、何も持っていない者だけが残されました。

いやそういわれても、どこへ行けばいいって言うんです?他に住めるところなんてありませんよ。

丸山玄太 1982年長野市生まれ 東京在住 クリエイター
undergarden主催