天使の虫歯

文 / 水庭

メロンパンに巣喰う卵の自我がくつ下をぬいだ
解剖された月の引力によび覚まされ
ねむりの中のカラザの糸が
石膏のまぶたにひびを割る
めがしらに告ぐ粉の痕
砂糖の中の骨盤の
またその中の不自由の海で
塩漬けにされた卵胞の記憶が
あまぬるい少女のうぶ毛を拒絶する
自らをおかす小麦の遺伝子を拒絶する

鶏骨はできたての黴の毛皮をまとい
魚卵は銀箱で養殖された氷を掬いきれず

乳の涅槃

すずりの陸で夢をみた
乾ききった濡羽色のあし裏が
石膏からあふれ出る粘菌のうえに
偽の歴史を溶きながす
もしも天使に歯があったなら
総じて虫歯にちがいない

やわらかな夢をみよう
やわらかな嘘をつこう
そしてやわらかに溶けてゆこう

たまご牛乳さとう小麦粉
奥歯に詰まってにがかった

水庭真美・Mizuniwa
1998年茨城県生まれ
学生