目的地消える生きじごく

文 / ナカムラマサ首

そして
重い産声

上げなければ
でも

声に成らず息の詰まるゆめが現実

実家地域で妻と両親から離れた場所を欲して国道沿いをひとり歩き歩き高まる尿意に押し出され書店的施設付属の清潔老人個室に無断で入室して用足しの直前私は十代アイドルのあどけない性的少女となって変更済みの排泄口の位置を確認しつつ部屋の真ん中にポカリと口を開けた仕切りも無いむき出しの純和式便所に

スカートを撒くり上げ背伸びの少女のしるしたる下着ずり下ろししゃがみ込む

ももとふくらはぎのぬくいほうようがある

新建材の安普請
空気の隙間に防犯カメラのモニタが見える
警備室の赤いポロシャツ達が

私の
不法侵入と第二次性徴に気付く動き出す

ところでわたしは
上手く熱く放尿の筈が
それは古典的でさも一般的な純和式便器のくせに
ウォシュレットの頼りなくも逞しい腕がむくむく伸び伸びと顔を出した末にわたしの排泄口目がけて
いささか激しいまさに水芸とても怖い壁も無い落ち着かない良くて悪くて変な気持ち

尿道の熱い感触はわたしの記憶に残るだろう

噴水は躊躇を見捨てて放尿と合流して
押し戻して
わたしの発育中のからだを濡らす濡れ場はもう止まらないうっすらお小水の香りを赤いポロシャツ達には見られたくない恥じらいの私の姿の本来は十代アイドル性的少女ではなく若作りの三十代男性

ドアが開いた
いろんなものが滴る透けた着衣もそこそこにほうほうの体で逃げたいわたし
逃がさまいと入口封鎖する赤いポロシャツ達は大柄黒髪のオールドミスの印象固めた一個体数体

何故ここにいますか?

台詞と非難の染み込んだ空気がわたしの鼓膜を押しているとてもとても無音が聞こえる

息を吸うわたし
吐けない
息を吸う
わけを話そうとして
吐けない
息吸う
肺に詰まる粘土が見える
頭がじんとする
吐けない
発音が遠い
赤いポロシャツ達の目玉群がこちら向きの漂
着点の前のうろつき
たくさん
吸ってしまう
それから吸えなくなって

吐けない
耳も遠いのに黒板の爪立て

所謂
わたしの目の中は体液の染みが花柄模様になったたいやみなシーツで
突然、裂ける声色だわ

ナカムラマサ首 Masakubi Nakamura
1976生まれ 兵庫県出身・東京都在住
ステンドグラス作家・画家

1998年 神戸芸術工科大学 芸術工学部 視覚情報デザイン学科中退
2003年 多摩美術大学 造形表現学部 映像演劇学科 卒業
伝統技法にとらわれないステンドグラス作品制作の他、ドローイング、近頃はリトグラフ作品等を制作。
ローブローもハイアートもへったくれもなく、あらゆる環境での発表及び表現に取り組む。
並行して自身の技法を生かした受注制作等も行う。
info@variantvox.parasite.jp
http://variantvox.parasite.jp/index.html

2018.9.1〜2018.9.30 トポス高地「ナカムラマサ首展」 アリコ・ルージュ(長野県飯綱町)
2018.12月 「個展(タイトル未定)」 ビキニマシーン(新宿区歌舞伎町)
2019.2.4〜2019.2.11 「虚飾集団 廻天百眼 舞台公演」 ザムザ阿佐ヶ谷(東京都杉並区) ※舞台美術上に作品使用
2019.3月 「個展(タイトル未定)」 喫茶と雑貨「ことたりぬ」 (東京都世田谷区)