未生の泥

タイトル: 未生の泥
素材: 鉄塊 石 植物の茎 泥水
場所:長野県松本市大手
行為:内面世界インスタレーション


文・写真 / 北澤一伯

 白か黒か。
悪意を発動して、おのれの黒さを隠微する言葉。
それは綺麗な言葉。本当は綺麗である事は無いのであるが、あまりにも多く、その言葉を語る人の顔に生ずる表情の共通項を、私は観たのである。それぞれが、それぞれの綺麗な言葉を、私に語る個人的理由を持っていると、表情の共通項は語る。そして私は、それぞれの顔に眼をむけることで、綺麗な言葉を語る人の世界観を、その表情や身振りのこなし方に観てとるのである。
 彼等は、己の正当性を主張する事に明らかに呪われてしまい、共通して真実を語る口を封じられているにもかかわらず、私に否定される事を頑に拒んで、私を黙殺する。

 この綺麗な言葉に立ち向かうにはいくつもの方法があり、さらに克服するにはさまざまな方法がある。そして、そうした方法は、いずれも、そうした言葉を封じ込める唯一の道は、私自身が意志を持って、今ここで、自分の内部でそのような言葉の顕われを窒息させる事だ、という真理の一面を示しているにすぎない。

 綺麗な言葉によって黙殺されるという事態を受けとりつつ、黙殺の槍のひと突きから、自滅を防ぐものは何であるのか。
 私は、綺麗な言葉の由緒と根拠を調査して、その真性の不正を暴く事が、私の自滅から再生へむかう出口のひとつだと考えている。

 ある種の不完全な物が、何かの意味の動機づけによってかけがえのない物になるということを、神秘主義的な秘術だと安易に答えるわけではない。また、手負いのシャーマンが、何かの物体に意味と物語を付与する事で、治療者の治癒に関わったとしても、神秘主義的な秘術だと安易に断定できるわけでもない。
 私は、それが起こる事は知っている。しかし、どのようにして起きるのか、私は知らない。

「善良な人がみずからの意志で他人の邪悪性に刺され・・それによって破滅し、しかしなお、なぜか破滅せず・・ある意味では殺されもするが、それでもなお生きつづけ、屈服しない、ということを私は知っている。」(「平気でうそをつく人たち」 M・スコット・ペック 草思社 p330)

 物質誌。鉄の断片、鳩の羽、花の種子、水晶、・・・。
本来、物には意味はない。しかしなお、なぜか破滅せず、いくつかの言葉がふさわしい必要性によって発見され、語られて行く。

 彼等の使う綺麗な言葉は、物も人も用途で見ている。

「用途でみるのが国家です。かっての戦時体制では鉄も木材も[供出]させられますね。」(「巌谷國士のシュルレアリスムの目」 週間金曜日 8/18 2017)

 このようなことが語られる時、そして予感されたことが周到に準備された計画であるとかすかに感じられる時、私が観ている場所において、場所の力に、わずかながらも変動が見られると思われる。未生の泥の前に、1930年代の戦前の男のように、私は佇んでいるのである。

北澤一伯 Kazunori Kitazawa
1949年長野県伊那市生れ

発表歴

1971年から作品発表。74年〈台座を失なった後、台座のかわりを、何が、するのか〉彫刻制作。
80年より農村地形と〈場所〉論をテーマにインスタレーション「囲繞地(いにょうち)」制作。
94年以後2008年12月までの約14年間、廃屋と旧家の内部を「こころの内部」に見立てて美術空間に変える『「丘」をめぐって 死んだ水うさぎ』連作を制作。同期間、長野県安曇市穂高にある民家に住みながら、その家の内部を「こころ内部」の動きに従って改修することで、「こころの闇」をトランスフォームする『「丘」〜』連作「残侠の家」を制作。
 その他、彫刻制作の手法と理論による「脱構築」連作として
1998年下伊那郡高森町「本島甲子男邸36時間プロジェクト」がある。地域美術界に対する新解釈として「いばるな物語」連作。
戦後の都市近郊における農業事情を読む「植林空間」。
 また、生家で体験した山林の境界や土地の権利をめぐる問題を、「境(さかい)論」として把握し、口伝と物質化を試みて、レコンキスタ(失地奪還/全てを失った場所で、もう一度たいせつなものをとりもどす)プロジェクトを持続しつつ、
95年NIPAF’95に参加したセルジ.ペイ(仏)のパフォーマンスから受けた印象を展開し、03年より「セルジ.ペイ頌歌シリーズ 」を発表している。2009年9月第1回所沢ビエンナーレ美術展引込線(所沢)
4th街かど美術館2009アート@つちざわ土澤(岩手県花巻市)
2012年6月「池上晃事件補遺No5 刺客の風景」(長野県伊那北高校薫ヶ丘会館)
7月「くりかえし対立する世界で白い壁はくりかえしあらわれる 固有時と固有地」 連作No7(長野市松代大本営地下壕跡)
2015年Nine Dragon Heads(韓国)のメンバー企画として第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展にて展示。
同年7月、Nine Dragon Headsに参加。韓国水原市にVoid house(なにもない家)を制作した。
2016年6月「いばるな物語」連作の現場制作。 伊那北高校薫ケ丘会館
2016年10月個展 「 段丘地 四徳 折草 平鈴」 アンフォルメル中川村美術館(長野県上伊那郡中川村)

2017年11月:ナガノオルタナティブ2017_05 北澤一伯展 開催予定