「Staring unproductive」34.5×41.0cm リトグラフ 2017年制作
文・作品 / ナカムラマサ首
夜と朝のあいだに
目が覚めた
瞼がやけに軽やかなのは何故?
窓を開けると墓場の見える我が家の窓辺より
突然の激しい激しい雨音ザアザアでわたしの瞼が開いた
これは恐らくわたしの脊髄反射
きっと道路はざぶざぶの洪水
冠水した道でじゃぶじゃぶと自転車を漕ぎたいと希望に燃えて我が家の墓場側にある窓を勢い良く開けたところ
雨など一滴だって降っていないではないか!
ところがであった
開いた窓から洪水のように流れ込んで来たのは極めて強靭な朝焼けの洪水見事のお手本
マジックアワーが終わろうとしているこれは
限定の時間帯
空も空気も真っ赤、真っ赤、真っ赤!
墓石達の脳天が真っ赤に染色されている
よくよく見ると
墓石達の隙間をびっしり埋め尽くしているのは敷石ではなくて眼球
眼球が凝視しているのはわたし
激しい朝焼けで大量の眼球は皆
充血している
サア、この、二階の、窓から
充血した眼球の敷き詰められた墓場に飛び降りよう
充血の仲間入り
周到な準備など無かったが跳ねる
跳ねるは踊り
知らない他人の墓石の脳天が真っ赤に乱反射していたら吸い寄せられた
世の中にはこういうこともあります
身が軽くなったのは事実
小さな嘘を接続詞として事実を既成するのは嫌よ
真っ赤な嘘も出てしまえばまことになるということがあります
「気軽にやればよい」というのはとても正しい言葉ですからわたしは軽い気持ちになって
この身をくれてやります
ところでそういった墓石の脳天で踊ると目玉の出産があります
そうか、目玉はこうやって生まれてくるのだなあ
あなたも見たければ現場に来なさい
さっき窓辺にいたわたしを眼球達は凝視していました
周りをよくよく見渡してみると真っ赤の墓場で改まった墓参りが行われています
突然空がフラッシュに焚かれたように照らされた物凄い雷鳴と落雷に間もなく追いつく集中豪雨
坊主の読経恐らく1 回二十万円も思わず止まって喪服の集団がバタバタと倒れてゆく、坊主は一人避難できすに立ち止まっている
何故ならここは真っ赤な墓場
出来事と風景の合点がいく
だからわたしは墓石の上で踊る真っ赤な影となって眼球はにゅるにゅると生まれ続けてぎゅんぎゅん繁殖してわたしはいつの間にか墓場の母となって
繁殖された大量の眼球は
倒れた棒の喪服を飲み込み
黙って立ち止まっている坊主も飲み込んで
墓場から溢れて道路を流れ坂道を転がって
眼球の洪水となって世間を埋め尽くして
明るい家庭も不幸な家庭も建物ごと押し流し
集中豪雨は洪水に成長して
世間は眼球の浮かんだ雨水で冠水して
いよいよわたしは真っ赤な脳天の墓石を飛び降りて街に繰り出し
電柱に引っ掛かっているサドルの無くなった自転車をとうとう拾って
びっしりと眼球の浮かぶ冠水した街並でいつの間にか充血の収まった眼球達の健やかな視線を浴びながらびしょ濡れになってじゃぶじゃぶと自転車を立ち漕ぎするのであった
ナカムラマサ首 Masakubi Nakamura
1976生まれ 兵庫県出身・東京都在住
美術家
1998年 神戸芸術工科大学 芸術工学部 視覚情報デザイン学科中退
2003年 多摩美術大学 造形表現学部 映像演劇学科 卒業
都内にあるステンドグラス・デザインガラス制作会社勤務を経て2015年の秋頃からステンドグラス及びとドローイング作品を主体とした制作を始める。
平行して自身のステンドグラスとドローイング技法を生かした受注制作等も行う。
info@variantvox.parasite.jp
http://variantvox.parasite.jp/index.html
今後の予定:
「フリーアートショウ×フリーマーケット」2017.6.10〜6.24 @ FLAT FILE SLASH(長野県長野市)
「ちいさなアート展 2017 Nagano」2017.7.7〜7.11 @ ギャラリー松真館(長野県長野市松代町)
「萱アートコンペ2016 受賞者作家展」2017.7.24〜8月中旬 @ Blanc アートギャラリー(長野県千曲市)
「ちいさなアート展 2017 New york」2017.10.26〜10.29/11.4〜11.5 @ Studio 34 Gallery(ニューヨーク)
「たいせつなもの展」2017.12.8〜12.22 @ 靖山画廊(東京・銀座)
「シンビズム-信州ミュージアム・ネットワークが選んだ20人の作家たち-展」2018.2.24〜3.18 @ 長野市信州新町美術館(長野県長野市)
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