旧市街

文 / 大谷祐

寒い日の格好をして
旧市街を抜けていく

ベッドのうえに昨日を置いて

一歩踏み出すたびに
白い空気が
からだから押し出されていく

わたしは一体どこへ向かうのか

老舗カフェの店員の革靴と
新聞を読む老人の眼鏡の
艶やかさの横を通り

空にぽっかりと透明の月が浮かぶ

街中の床の色が
近すぎる空の色と重なっていく

わたしは最も用心深く

追いかけたら
そこで終わり

旧市街はどこまでも平たい

ひとりでも
退屈でも
高い塔に上らなければ

夕日だって見えない

大谷祐 Yu Oya
1989年群馬県生まれ
詩人
oya-u.com