上っ面なじぶんもうけ入れてみる

文 / 山上晃葉

モリヤさんにこのフリーペーパーに寄稿しないかと言われたのが一昨日前。展示のDMを置きにフラットファイルを訪れた時だった。
なんでもいいよ、と言われたものの何を書くか…文章は得意ではないけれども書きたい事がいくつかあった。

今年の震災の日に書いた日記。

私は去年のこの日から今日まで、ただ、ひたすら前をみて走ってきたように思う。
今、目の前にある私がやるべきことを精一杯やり、一番近くにいる大切な人を想い守る。
それが私がその時すべきことだとおもった。
現地に行きボランティアをすることや原発のデモに参加することが、そのとき私がすべきことではないような気がした。
何が正しい行動なのかなんて多分ないのだと思う。
ただ、一年経った今、ひとつの区切りを自分につけようと思いたった。
テレビで何度も見てきた場所に実際に行き現地の人に会う。
とても簡単なことだったんだと思うが、一年もたってしまった。
でもこれが私のタイミングなんだと思う。
自分の国で起きた出来事をちゃんと目と耳と肌と手に刻み付ける。
文字にすると、何かが多すぎたり足りなすぎたりして、言葉にするとおもいが強くなり過ぎてどうにも上っ面なものしか表現できない。
でもそんな自分をうけいれてみるようともおもうのです。

この一年で、自分のことを認めて受け入れてくれる人がいることの絶大なパワーを知りました。
いつも近くにいて笑いあえた人が離れていく辛さも知りました。
家族の大きさも、大切さも知りました。
これらを抱えてまた先に進んでいく。
日本という素晴らしい国をもっと知るために、日本人の自分という輪郭をはっきりさせるために海をこえて行くのだと思います。
一年になるか二年になるか三年になるか、それはわかりませんが日本人として日本に生まれこの親から生まれてきたことは変わりません。
そんな途方もないサイクルが私は不思議でしょうがないのです。
この、言葉にも文章にもできない感情や想いをかたちにできるようになるまで想像し、つくることを続けたいとおもうのです。
2012.3.11 3:50

ちょうどGWが終わった次の日、私は宮城は仙台に車でむかっていた。運転をしてくれてるパートナーの横で、この日までの一年を思い出していた。
たくさんの変化に思いを巡らせてみると、窓を流れていく自然の大きなサイクルと自分の中で起こっているサイクルとのリンクを感じずにはいられなかった。時折、自分に起こる変化や自然の変化が一瞬リンクすることがある。その時、自分は自然物なのだと感じる。

何かを創り出すこと。
そのことに希望が持てなくなっていたのかもしれない。
所詮壊れてなくなってしまうものをつくって何になるのか。
ここ半年、作品らしい作品は作れていない自分を捕らえていたのはそんな想いだった。

仙台の景気の良さに驚き少し複雑な気持ちのまま石巻に向かった。
海に近づくにしたがい荒涼とした街が目の前にあらわれた。
車は積み上がり、瓦礫の山が高くそびえ、家の中は空っぽになっていた。
車屋とドラッグストアだけが機能しているような状態でそこに辛うじて生活を感じさせる匂いがあった。
車を降りて海岸線を歩いていた時、ふと目に触れたものがあった。
それは恐らくここに家があっただろう場所にポツンと置かれた仏像。
そしてその横に造花のコスモスが砂にうもれ色褪せながらも砂から顔をだしていた。
私はこのコスモスが一瞬本物のコスモスにみえた。
津波に流され色を失い、折れ曲がった末にまるで自然物かのように土から顔をだす造花のコスモス。
所詮、人工物など自然の前ではおそろしく無力で無益だと感じていた自分の感情がこのコスモスに「救い」を感じた。
なぜそう感じたのかはうまく説明できないのだが、何だか肯定された気がしたのだ。
多くの人の生活が一変し、多くの人の命が流された土地だからこそそう感じたのかもしれない。

私たちは今、とても複雑な社会に生きている。
しかし、それは私たち人間が創り出して来たものの中だけの話で、自然はいたってシンプルで地球はひたすらゆったりとしたサイクルを続けている。
自然は人間のサイクルを肯定も否定もしていない。ただ、流れ続けている。
そんな小ちゃな人間に何ができるだろうか。人間の愚かさを嘆いてたってなにも始まらない。
ただ、自分のサイクルを続けていくしかないのだ。
自然物として。

山上晃葉 Akiha Yamakami
1984年長野市生まれ 布作家
身体をモチーフに版画や布を用いて立体作品を制作。国内外で発表を重ね、数年前よりダンスとのコラボレーションを始める。自らの作品を”ソフトスカルプチャー=柔らかい彫刻 ”と呼び、ダンサーの衣装なども手がける。
2009年多摩美術大学大学院絵画専攻版画研究領域修了
akihayamakami@gmail.com
http://akihayamakami.com