父に語り尽くせない感謝を込めて

文 / 三船ゆい

砂漠の上に大の字に寝て、指をパチンとならす。

その体は、パチンという音と共に砂粒に変わり、ザッと一瞬音を立てる。

人型をした砂山と化して、遠くの方に風が唸るのを聞いて不安になる。

不安になるのはみっともないと、さっきまで背中に感じていた砂の熱さを思って、頭の中の不安を向こうへ押しやると、強い風が砂の体を巻き上げていった。

「最初から、何もなかったではないか」と、呟いてみた。

なくなった体で、思い出したくもない記憶を遡ると、さっきまでの出来事は、自分が後から構築した物語であると言わざるをえない。

戦地には、人型をした穴があり、いかにもという口を開けてまっている。
「貴方という人はいなくなろう」

その時、願ったに違いない。または、他に考えも及ばなかったのだ。

そこは緑の草原で
大きく伸びをして寝転んで
夢の中の出来事のようでいて
本当は何か仕掛けがあって
今一度、ここで息をするのだと

三船ゆい Yui MIFUNE 1972年生まれ
長野県山ノ内町在住 自営業