温泉ソムリエ的な・・・(1)

文 / 東澤一也

 何者?と聞かれて「温泉ソムリエ」と答えると、じゃあ何処の温泉が良いですか?お薦めの温泉は?と尋ねられる。または、温泉飲むんですか?と言われたりする。確かに温泉を少し口に含んで「う〜ん、この強烈な酸味は草津の湯だ!この色と塩味とサビ臭さは有馬温泉だあ」とか当ててしまうカリスマ温泉博士もいらっしゃるが、それは温泉ソムリエの本来の目的ではない。ある程度の知識を持っていた方がより大好きな温泉を楽しめると思い温泉ソムリエになった。

 一般的に温泉と言うと、地下水が地熱で温められて地表に出たもの、あったかいんだからあ〜という感じだろうか。実のところ日本では「温泉法」という法律によって詳細に定められている。いい湯だあなアハハン♪♪♪ と言うような浸かって気持ちの良い温度、火傷するような熱湯は誰もが温泉だと解かるが、10℃の手の切れるような冷たい湧水でも法律的に温泉となる場合もある。 
 で、温泉法による温泉とは。まずは地表に出た時(地表に出た場所は「源泉」と言う)の温度が25℃以上だと全て温泉!あっ基本的に成分は水ですよ。熱い石油が湧き出ても温泉とは言わない。で、25℃と言うのは、テキトーに決めたものらしい。日本の温泉法はドイツの法律を基に作ったもので、ドイツでは20℃以上が温泉となっている。日本はドイツよりも気温が高いから25℃でいいんじゃね?と言う感じで決めたのかな。まあ、日本の夏の平均気温が25℃ぐらいだから、気温よりも高い水が湧いてきたら只の水じゃないよね。そうだ温泉だ!ぐらいのイメージで出来た法律だと思ってもらうといい。
 25〜34℃未満が低温泉、34〜42℃未満が温泉、42℃以上が高温泉だ。そして25℃未満は冷鉱泉と呼ぶ。
 で、何で冷たいのに温泉なの?と言われると、法律で決められてるから、としか言えない。法律ってそんなもんです。温泉法では温度が25℃未満でも、二酸化炭素(CO2)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)などの身体に良さそうな含有成分に関する19の特定条件のうち1つ以上が規定値に達していれば温泉と呼ぶ。だから10℃の冷鉱泉を加温してお風呂に使っていても堂々と「〇〇温泉」という看板を出すことが出来る。
 また地中深く100mごとに地下水の温度は2〜3℃上昇するので、つまり1000mほど掘って出た地下水はほとんど「温泉」となる。

 次に良い温泉とはどのようなところか。「源泉かけ流し」という言葉を聞いたことがあるだろうか。良い温泉の代名詞のように思っている方も多いと思う。源泉から湧出した温泉が手を加えられることなく湯船に注がれ、溢れ出た湯はそのまま流れていく。確かに湯が新鮮で理想的ではある。しかし源泉温度が90℃だったら、30℃だったら。どちらも源泉かけ流しというわけにはいかない。または泉質が優れていても湧出量がとても少なく、かけ流しが出来ない温泉施設もある。来場者がとても多い日帰り施設などではレジオネラ菌などの中毒も心配だ。そのような温泉では、加水・加温・濾過循環・消毒剤添加などの処置がとられる。源泉とは多少異質のものになってしまって残念だがいたしかたない。しかし良い温泉とは泉質だけではなく、立地、景観、施設、食事、家族や温泉仲間との交流、さらに歴史的なものも含めて判断するものだろう。皆さんにはぜひ自分に合った良い温泉を見つけていただきたい。

 最後に温泉ソムリエの楽しみ方を一つ。温泉施設には必ず温泉分析書が掲示してある。そこには温泉名、温度、成分、泉質などが細かく書かれている。温泉ソムリエは先ずは温度、成分だけ見て泉質を読み取る。そこにはクイズを解くような楽しみがある。当たると喜び、外れるとがっかり。泉質とは「カルシウム・ナトリウム−塩化物温泉(高張性・弱アルカリ性・高温泉)」のように書かれているものである。このように温泉にはただ入るだけではなく様々な楽しみ方がある。皆さんもぜひ温泉をいろいろな角度から楽しんでいただきたい。また温泉ソムリエのアドバイスが必要なら遠慮なくお尋ねいただきたいと思う。

 次号からは温泉ソムリエお薦めの「美人の湯」「混浴温泉」「入浴法」などを具体的な温泉地を挙げてお話していきたい。

東澤一也 Kazuya Higashizawa
1958年生まれ
温泉ソムリエ

kazuya@higashizawa.com