文 / 塚田辰樹
廃棄物をこれでもかと載せた、小型トラックが前を走っていた。車で通勤していた私は、そのトラックに続くことになった。かなり車体も錆びついて、土の汚れもそのまま、メンテナンスなど数年前なのではないかと感じるトラックだった。それ以前に、ずいぶんと荷台が無造作な縛り方をしているのだ。嫌な予感が的中、廃棄物の一部は荷台をずり落ちた。落下した白い筒のようなものは一瞬小さくはねた後、あっという間に車の前へ躍り出た。よけきれず、タイヤで派手に踏みつぶしたとき、鳥よけの爆音機のような音を立てながら破裂した。
通勤中で先を急いでいたが、何もしないわけにもいかず、心底うんざりしながらも路肩へ停め、破裂した何かをかたづけようと破片を集める。アスファルトが熱を帯びてゆらぐ様子を眺めながら、知らぬふりを通して走り去ればよかったのに、と自分に嫌気がさした。
かきあつめた破片から、どうやら陶器のタンブラーであるらしいことがわかる。車で踏みつぶすと、とんでもない音が出るものだと、さっき聞いた破裂音を反芻しつつ、最後の破片を拾い上げた。それはちょうどタンブラーの縁に当たる部分で、手のひらほどの大きさだった。不意に裏返すと、その縁には赤くにじんだような模様がついていた。タンブラー自体は、真っ白でシンプルなデザインなので不思議に思い、つやつやと光る表面に目を近づけた。その瞬間思わず足元へ投げ捨てる。それがようやく口紅の跡だとわかったからだ。乾いた音をたてて2つに割れた。
鳥肌をたてながら車へ積み入れていると、ようやく天気が良いことに気がついた。気分転換のためにラジオをつける。停車中の幼稚園バスを追い抜くと、幼く明るいあいさつが窓越しに聞こえ、バスへ何度も頭を下げる母親が見えた。だいぶ年老いた大型犬を、ゆっくりとした足取りで連れ歩く男。サイズの合わないヘルメットをかぶり、立ち漕ぎで学校を急ぐ中学生。いつもの朝を通り過ぎて、いつものラジオ番組が明るい冗談で話題を締めた後、時報を伝える。それでも気色悪さは続いた。車が揺れるたび、存在を示すかのように時折、カチャリと音がした。別の誰かを乗せているような気分さえしたので、口が渇いて唾をのみこみ、不意に唇をなめると、破片の口紅が赤々と蘇った。
塚田辰樹 tatsuki tsukada
1986年生まれ 長野県出身
制作会社勤務(dtpオペレーター、dtpデザイナー)
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