カランガランと

文 / 水橋謙

ある地下街
カランガランと
つぶれた残像がダランと軋む 午前二時
去らんとした裏路地に在らんとしない俺犬が
女の匂いを嗅ぐのか 跨ぐのか 
はたまたこれは君の左翼に似たぼかしか?
まやかしか とある誰かの祈りか欲望か
「ぼかぁ しりませんよ せんせいに
きいてくださいよ ぼかぁしりませんよ」
ドロドロドロドロとこぼれる手前の
君のどろどろはそんなものなのか がっかりさせるな
売国奴
俺のどろどろどろどろとおぞましいまでの
怒りに満ちたこの情けなさと退廃に満ち淀んで
焼き焦げた静かな腐った王様の手厚い介護を受けた自己肯定を
象のフンでも消せない隠せない なぞっても拭き取れない 
誰のせいでもない 君のせいなんだ 君の下衆さが
足りないからだ 俺をこんなに傷めつけやがって
君の手のひらに口元にほくろの中に塗りたくり染み込ませたい
孕ませたい
逆光にマチルダがルンペンどもに内臓もろとも食われちまった
淫乱どもめ 見ろ もっと奥底に沈んでいる
そのどろどろどろどろした粘り気のある濁った
飛び交う意識を伝った無意識を 
天皇陛下の雨だれが元も子もない宮殿と自慰をやめない女が
グッと見詰めた眼光の先に その千光年先に
灯りもまばらな地下街を
灰色に踊るブーゲンビリアをこじ開ける 兄弟よ 
俺の兄弟たちよ 自閉の群れが声を殺して
嗚咽の轍につまずいた わだつが変なおじさんです
その反動を爆発的に笑い出す こしゃくな癇癪持ちどもめ
ぶち殺してやると ひとりごちたら さぁたいへん
どじょうが出てきて さぁ大変 ぼっちゃん一緒に
乱反射への無意味な了解を 散開と残骸を 
かいかいかいーの界王様に 手放せ 今この瞬間を
飛び散るような 鉛のわたしの荷馬車から  
うす汚ねぇ狂った時代に酔いどれて安心してらぁ
ゴミどもが安住している悲しみが
とある地下街が
漆黒忘れた 桜が
満開に 
青空はくだけ散る

言い忘れたの その落第に 
その時代 
またはお前の白紙
死人すら味方につけるこのハクチ
OR 博打
あるいはこのわたし
一寸迷った
千両役者の通り道
カランガランと
誰もいない
帰り道

水橋謙 Ken Mizuhashi
1980年中野市生れ
職業 作曲家、音楽屋、酒屋、詩人
kenmizuhasi@cup.ocn.ne.jp
https://soundcloud.com/ken-mizuhashi