文・写真 / 青野まつり
死んじゃっても良いかなぁ。
そんな主人公の気持ちからパラレルワールドへの旅が始まる物語「流星ワゴン」を読んだ。
主人公の故郷が自分と同じ広島というところも興味をそそった。
仲の悪かったもうすぐ死ぬはずの父親が元気な姿で突如息子の前に現れ、共に旅をする。それは二人が、このまま離ればなれになるのを後悔していた気持ちが引き起こした奇跡だった。
そこで自分も、自分が後悔を持っている死んだ人たちと会えたら、何を話すか想像してみた。
◆広島のおばあちゃん
「おばあちゃん、最後に病室のベッドでウチに”ありがとう”って言われた時、どう思った?
父さんに言いなさいって言われたから言ったけど、あれって決定的な別れの言葉みたいで、ウチは嫌だったよ」
「なんね、そげなことおばあちゃん、もうわかっとったけぇ大丈夫よ。
最後に××ちゃんや◯◯ちゃんまで来てくれて、嬉しかったよ」
◆前の会社の友達Kちゃん
「Kちゃん、会社で一緒に呑みに行くのって私だけだったでしょ。それなのに連絡先教えるの忘れて辞めた私のこと、薄情だって思ってるよね。あれだけ悩み、話し合ったのに。
最後に私がいなくなって寂しいって何度も言ってたって聞いたよ。それが後押しになったの?
あの時連絡先を教えて関係が続いてれば、きっと死ぬことは止められたよね」
「ううん。私はもう30になったら死ぬって決めてたから、変わらないよ。最後に会社で呑みに行く友達ができて、よかった」
「私も最近、Kちゃんと同じ気持ちになってる気がする。30になっても、今の私には何も無い。生きててもこの先どうなるか、何も見えない。同じことをすべきのような気がしてるんだ」
「私とは違うんだから、大丈夫だよ」
「そんなこと無いよ。それより、最後に遺書も無かったみたいだけど、やっぱり私はKちゃんに、友達とも思われてなかったのかな?連絡先教えなかったから?」
「ごめん……。よくわからないんだ」
◆京都のおじいちゃん
「おじいちゃん、あの時、具合悪いの気づかなくてごめん。タクシーに乗りたいって言ってたのに、めっちゃ近い距離だったから私、無理矢理歩かせたよね。
その3日後に死ぬなんて思わなかった。でも、最後に一緒に呑めてよかった」
「そんな下らんこと気にするな。お前は東京でがんばれ。せっかく出て来たんやから。
負けたらあかんで。根性や」
おじいちゃんのところで、私はやっぱり「死んだ人たちと会えなくて良かった」と思った。最初は会って伝えられたらと思っていたのに。
おじいちゃんが死ぬ前、私は東京の恵比寿ガーデンプレイスにある会社への就職が決まって、おじいちゃんは嬉しくて引っ越しにまでついてきて、更にガーデンプレイスの前で「立派やなぁ」と言って一緒に写真を撮った。
だからおじいちゃんの中では、私は永遠に、東京の恵比寿ガーデンプレイスという立派な場所で就職した私のままで止まっている。
その後転げ落ちた私を見られなくて良かった。
そして何の因果か、めぐりめぐって、私はまた今いるガーデンプレイスに戻って来た。
仕事は全く望み通りになっていないけれど、これでちょっとはおじいちゃんへの後ろめたさも減るような気がしていた。
だから「恥ずかしいから嫌だ」って言いながら撮ったあの写真を、もう一度見たいと思って探した。
でも、京都のあの家からも見つからなかった。
「流星ワゴン」では、父親が元気なパラレルワールドで主人公と二人で遊園地で一緒に写真を撮るシーンがある。
それだけは、おじいちゃんに会ってもう一度したいことかもしれない。
そしてパラレルワールドから現世に戻った主人公は、その写真を現世で見つける。
私の願望が叶ったら、私も今度こそ写真を見つけることが出来るだろうか、と思う。
青野まつり Matsuri Aono
1984年生まれ
クリエーター
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