ざわめように

文 / 納和也

ざわめように。ふりえると過去の記憶が途切れる。果して途切れたのだろうか?叫ぶ音が目から体内へ注がれてゆきもうこれ以上やめてほしい、おねがいだから、記憶を、途切れた記憶を忘れさせて。夏の記憶は認識できるのはとても哀しい気持ちはどういう事か理解できないでいる。叫ぶ声は。夜のじじまに叫ぶ声。そういえば女が割烹着をきて山の中を走っているという話を、それも夜中に。そのあと夜自動車にのるとその度に車のサイドに誰かいるのかと怯えている。切り離す事を人間は出来るのだろうか?一度直結するともうそれを引き放す事は出来ないみたいだ。手元に記憶が残ることはとても恐ろしい。また叫ぶ声が遠くから真空の中、体に鞭を打たれる。勘弁してください、私は何もしてませんとお巡りさんに弁解をするように縋りつく。私は妥協できない男だ。弄り回して物を壊す。人は裏切るがものは裏切らないと。ものの方が裏切るとこの男はいう。助けてください。お願いします。山の中に六本木の交差点が現れる。地下鉄は足元を揺らす。人が多いのは。クラブで誰かが襲撃にあった場所の一階下の漫画喫茶で眠る。叫び声はその声だったのか?アスファルトに罅が入っているのを車から降りで罅をさする。山の夜は暗すぎて何にも見えない。叫び声だけこの男と切り裂くことが出来ない。山の中で女が走っている。もう空が白んでいる。針葉樹林にひとの香りがする。誰かが植えたのだろうと思ったら男は怒りが込み上げてくる。お腹がすいたように。漫画喫茶の隣のエリアに大きな足音に目が覚める。男の左耳が揺れ目が覚めてどうか勘弁してくださいという。壁の外のざわめきが逃げ場などないと。襲撃か。渋谷の道玄坂の漫画喫茶。からすが泣いている。車で山を降りる。七曲りという実際は八曲りをきしみながら車は下る。恨みはないから。本当ですか?本当はあるのでしょう?そこを触れないで。抱いて。股間が大きく膨れて鼻から膿が出てくる。女の手に僕の膨らんだものを撫でてくる。でも鼻から膿が出てるんだよ、それでもいいかい?股間があれはそれでいいの。じゃあ抱かないからそれでいいね?はい。誰もいない秋のスキー場の駐車場で忘れ物が。叫ぶ声が地面を揺らす。天井がみしみし。灯油のポンプが壊れた。寒さが身に染みて涙が出る。喜寿の祝いで祖母のもとで寿司を食った。人ひとり言葉を求められる。無病息災と。暗闇に午後の西日が見える。暗闇は寝る為に暗闇なの?ずっと眠って居たいと男が叫ぶ。犬が寄り添ってくる。雪がある夏の日降りあきれかえり床に着く。寒いなと男は呟く。脳の配置を変えてほしいけれどどうしたらよいのですか?漫画喫茶で聴こえた男の足音はもう聴きたくないものだと男は怯えきっている。漫画喫茶に夏目漱石は置いていないので漫画を読もうと努力する。山の暗闇に叫び声が鳴り響いてもうどうにもこうにもしようとならない。ジョンケージがこの世に無音がないと云ったらしい。そうですか。それはでも神経への音のかぎりでそうなんじゃないですか?男に耳鳴りが襲い掛かる。やめてくださいこれ以上。お願いですから。

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納和也 Kazuya Osame クリエイター 1971年埼玉県熊谷市(旧妻沼町)生まれ
http://osamekazuya.com
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