閉鎖病棟

kimuranatsue10

文・写真 / 青野まつり

8月、世間が思い切り夏を楽しむ時期に、私は高層ビル街ど真ん中のメンタル閉鎖病棟に入院した。
病棟は常に閉鎖されているものの、とても明るく爽やかで、看護師さんは笑顔。
少しでも傷をつけたり、首をくくれる可能性のあるもの、携帯やパソコンは全て禁止。
鏡やズボンの紐もだめ。トイレのフックは外されている。

たまに夜中に拘束室から尾崎豊の絶叫カラオケが聞こえてきたり、廊下では常に誰かがソファで泣いていた。

いろんな患者さんと話した。皆が共通でわかっていることがある。
私たちに「完治」は無い。
4歳まで虐待を受け、それ以降20年間、自覚のないまま「良い子」を演じてきたAさんは、10年のカウンセリングを経て、これまでの作られた自分を崩し、いま新しい自分を作っている最中だそうだ。

私も今、性格を診断する検査を受けている。自分は善人か悪人か?おそらくどちらでも無い。
「可哀想だと思う人は助けるが自分が楽したい時は卑怯な手を使う」ことだけは自覚がある。

入院最後の夜、Aさんの声で娯楽室に行くと、ビルの隙間から遠くに、花火が上がっているのが見えた。
花火が終わるまで私たちは、「すごーい!」と言いながら、ずっと無我夢中で見ていた。

Aさんは翌朝電話して、相手に泣きながら怒っていたけれど、私が退院する最後は笑顔で見送ってくれた。

とりあえずわたしもAさんも、楽しい時には笑うことができることがわかった。

おわり

青野まつり Matsuri Aono
1984年生まれ
クリエイター