子供に伝えること

文 / 山本正人

自分は大層な人間ではない。
だから、子供達に伝えることも教えていくことも、
本当に在り来たりな、ごく普通のことしか教えられない。

ただ今は、子供達が見る見る成長して、
私がぐうの音も出ないような言葉を発することが嬉しくてたまらない。

そう、自分は本当に大層な人間ではない。
子供達に教えられて、私もたくさん学んでいる。

6歳の長女、3歳の次女、1歳の長男。
3人のパワフルなエネルギーに、元気を貰っている。

ときとして、頼りない父親でも、
子供達を導かなければならない場面がある。

そして子供達を注意したり叱ったりした時、
彼女達はよくこう言う。

「パパ、もう大嫌い!」

こんなとき、私が子供達に必ず返す言葉がある。

「あっそ、お父さんは大好きだよ!」

恥ずかしいとか、軽すぎるとかそういうことじゃない。
素直な気持ちだ。

そして幸せなことに、
この言葉はすべてを正しい方向へと導いてくれる。
(今のは、大人の都合では無かったか?)
(私の言ったことは間違っていなかったか?)
こんなことを私にも考えさせてくれる。

自分が幼いころ、
意識しなくても絶対そこにあった親の存在。
それが当たり前過ぎて、ときどき不安になった。

「パパやママは、僕のこと嫌いなんでしょ!」

「いい加減にしなさい!」

親戚のおばさんが、その場面に居合わせたとき、
後でこっそりと「お母さんもお父さんも、好きだから言うの。」と言った。

ほとんど分かっていた。

でも。

でも、なのだ。

子供達が日頃、私に、
「パパ、大好き」という言葉をくれる。

その一言が、私の存在を2倍にも3倍にもしてくれる。

歳を経るにつれて軽々しく口にするものじゃないという固定観念が私に染み付き、
恰も日本人の奥ゆかしさの一つのように捉えていた私に、
無邪気100%の強烈な一撃をお見舞いしてくれる。

だから私も出来る限り、
ノックアウトされて倒れる前に出来る限りの無邪気全開で返す。

「お父さんも大好きだ」

山本正人 Masato Yamamoto 1976~
群馬大学教育学部卒 長野市在住