文・写真 / 桜井弥生
今日も長男4歳9か月、早朝から工作用にとためておいたBOXからガラガラと空き箱やプラカップを床一面に広げ、なにやら制作中。空き箱をトラックに見立て、もちろん蓋は扉となって開け閉めができ、トイレットペーパーは車輪4つでしっかりガムテープ固定。
「いつの間にこんなに上手になった?」とメキメキと上達する長男の腕前に驚くばかりですが、1年前は普通に市販のおもちゃ「トミカ」「プラレール」を並べて大渋滞を作っており、造形表現にまでは至っていなかったと思います。
中学校、高等学校の美術教員を経て、現在は小学生、幼稚園児の造形を自宅の教室で見ています。教室に初めてやってくる子どもたち、そして保護者のほとんどは、「家でも描いたり作ったりするのが好きみたいでいつも何か作っているんです。なので好きなことをもっとやらせてあげたいなと思って来たんです。」ときっかけをお話しくださいます。
こうした、造形表現の描いたり作ったりすることが「好き」、ということはどこから生まれてくるのか?教室にやってくる彼らの以前、赤ちゃんの造形表現(子ども広場このゆびとまれ)からその始まりをみてみたい。
隔月で開催しているこのゆびとまれの「母と子の造形」は、造形材料との初めて出会いと親子あそびの広がりを目的として行っている。
今日は食紅で色水を作り、それをペットボトルに入れて、カラフルなお魚を制作します。ペットボトルの中には色水以外にミラーテープを入れたり、外側にカラーの丸いシールを貼ったりすることもできます。
Aくん(男児2歳)が色水を作っています。「コップに水をくむ」、そして「ペットボトルの小さな口に注ぐ」を注意深くやっています。多くはこぼしていますが、注ぐことによって中の色水が増え、自分の行為によって変化が起きていることが分かるのか、繰り返し熱心に最後まで注いでいます。
次にAくんはペットボトルにミラーテープを切って中に入れます。「切る場所」を「見定めて」、ゆっくりながらしっかり切ります。お母さんのほめる声が聞こえます。
最後にAくんは貼った○シールの上に、さらに油性マジックでグリグリと描きました。(写真)描く指示は出ていなかったものの、描きたくなったのか○シールの中に「確実に」描き入れています。
ペットボトルに入れられた沢山のミラーテープ、いろいろな色のシールで飾られた表現から、Aくんが用意された造形材料との出会いと関わりを、お母さんとのあたたかな制作のなかで存分に味わい、楽しんでいた様子が見て取れる。活動の1時間をひとつのことに集中する2歳児の姿は、小さな子にとって「もの」つまり世界との出会いがいかに興味深く、また自身が手を使って関わることでもたらされる世界への変化がいかに彼らの関心を引くものであるかと想像させる。こうした出会いを大人は大事に見守り、育んでいきたい。
さて、我が家の長男はというと、今度は図録を引っ張り出してデュシャンの「泉」を写し描きしたいと大騒ぎしている。いろいろある作品の中で「なぜこれ・・?」とこちらとしては朝ごはんの準備で渋々ですが、子どもがやりたいと言っているときは「好き」を伸ばすチャンスです。こちらとしても只今造形伸び盛りな子どもの造形をゆったり見守りたいと思います。
桜井弥生 Yayoi Sakurai 1976~
静岡県生まれ
造形教室主宰、アーティスト
埼玉県にて中学校・高等学校教員を経て、現在NAGANO・アートチャレンジ教室を主宰。
yayuyo260@hotmail.com
http://www1.ocn.ne.jp/~atchalle/
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