綴り

tamurayukiko-06

文・写真 / 田村侑子

ある特定の匂いが、それにまつわる記憶を呼び起こす現象を
「プルースト現象」と呼ぶようです。

それは高校生の時によくあったこと。
特に夏の終わりから秋にかけて、ちょうど今頃の季節に。

 空気の匂い。

ぬるい空気に交じった微かな匂いを感じ取ると同時に、
過去の像がはっと頭の中に浮かぶ。

その感覚が身体の中に走ると、
「来たっ!」と思っては
何故だかにやりとしたものです。

数年後にその現象に名前があることを知って、
さらに数年後には気付かぬうちに
その名前も、
その感覚すら捉えていなかったように思います。

***

フィルムで写真を撮ると、当たり前ですが
現像するまでどんな画が刻まれたのか見えません。

シャッターを押したあの瞬間から、
なんやかんやと様々な時間を経て
様々なものを見ること暫く
プリントを手にして初めて目に映る画。
「はじめまして、過去」みたいな、
「そんな光景だったのですか」と、
静かに読み解くような感覚が好きです。

馳せる。
知らなかった月日は
今日を見てきた昨日の重なりなのだと
目くるめく織り成されていくのだと

そうしたとき、
空気の匂いのような
景色の滲みのような
言葉が及ばない、
そんなものが見たい。

そうしてこの写真を撮ったとき
背景の海を越えて
あの空気の匂いと記憶に湧いた、
通学路の山道を包む空気を思いました。

田村侑子 YUKIKO TAMURA

1986年生まれ
東京生まれ、駒ケ根育ち、新潟市在住
印刷会社勤務

2009年〜
新潟市、NY、名古屋市にてグループ展に参加
写真と絵。

yukk_te@yahoo.co.jp