線上

文 / ごとうなみ

娘の入試が目前に控えている。
そして娘は未だ悩んでいる。
娘が、人生の岐路に立っている。

昨年秋いつもの国道に居るはずの無い子猫がいた。
活気盛んな月齢の様子がスローダウンした車窓から見てとれる。
目が合って、鳴いたと思う。
市街地からふたつのトンネルを抜け、続く洞門まで、ほんの少し陽があたるような道に
その子猫は無知のままうろついていた。自力では来れる由も無い。
 一瞬、飼おうかと考えた。
(けれど私は今出勤途中で、すでに居る7歳の愛猫とうまくやっていけるか知れないし)
やめた。車も停めずそのまま仕事へ向かった。

そして帰路、トンネルの中でその子猫は死んでいた。
薄暗い灯りの中、センターラインにまたがる動物らしき毛の配色が朝の記憶と合致し
通り過ぎた一瞬にあの子猫だと確信した。胸が張り裂けた。

トンネルを通る度に死を見過ごした自分を問う。
日によって様々な答えが浮かび上がったが、仕事場や家へ着くと忘れた。
残像を残したまま遺体は小さくなっていったが
初雪の降るころ痕跡が消えると、私も子猫のことを考えなくなった。

生と死をはじめ生涯にはうらはらなことが折り重なって起こる。
一喜一憂し、右往左往しながら歩んでいく。
娘は今分岐点に立ち、己や日々と否応無しに関わっている。
自身の環境に挑んでいる。
Do your best. Do my best.
私は彼女に寄り添って見守っていきたい。

ごとうなみ Nami Goto 
1969年生まれ
美術家
http://nami-goto.jimdo.com