タイトル:場所のマグノリア 素材: 石膏像頭部 コンクリート駐車場 大きさ: 9cm×9cm×10cm 行為: 物質誌 布置する台座 <極東>彫刻 場所:松本市大手 マツモトアートセンター駐車場
文・写真(作品)/ 北澤一伯
「そうです。マグノリアの木は寂静印です。」
宮澤賢治に「マグノリアの木」という短編がある。
おそらく山辛夷のことだろう。
すでに伐採されてしまった山辛夷の樹のことを思い出すことがある。
それによって、私の「氏族」の存在と結びつけられた「場所」の定位に、変容はあっても継続はあるのだという実感とともに、「土着」(ネイティヴ)という概念と共振するような感覚の流れを感じることが多い。
ラテン語源からみれば、「ネイティヴ」とは特定の場所に生まれ、したがってその場所に本来的な帰属をもつ人々のことを包括的に指ししめす、きわめてニュートラルな言葉だったという。
実際、それは近代科学のディスクールのなかでの人類学者たちのテクニカルな用語として使用されていたと私は思う。だが、都市社会から想定された地方の土地に、生まれ、育ち、住み、共同体に所属するということの、色彩に例えるなら混色と濁色をもふくむ陰影のある場所は、「地域」という言葉をともなう政治性によって、綺麗に脱色されてしまった荒野のようにみえる。
『ルイ マランが「ユートピック」のなかで説いているように、修辞学の伝統においては、場所を示す「トポス」という用語には二つの意味があった。一つは「トピック」、すなわち修辞学的・詩学的な形式のことであり、もう一つは「トポログラフィー」、すなわちそれ自身の実体・一貫性をそなえ、「名前」を持った空間の断片のことである。ところが、いつのまにかわたしたちは「場所」(プレイス)という概念の近代的定位にむけて、それが本来内蔵していた修辞学的・詩学的力を無視し、もっぱら場所を実体的な空間と関連づけて認識する思考方法を発達させてきた。
そうした「トポログラフィーの思考」の犠牲になったのが「土着」(ネイティヴ)という概念だった。』(クレオール主義 今福龍太 )
巷で語られている綺麗な言い回しを誰しもが本当だと信用していないとしても、己の意見の真理性が揺るがないという宣言を語る権力者の彼らは、実は己の賞味期限を熟知し、適用範囲が限定されていると肝に銘じて語っているようである。それを政治性というのだろうか。
それに対する異論を語ることは、己の無能さ加減とともに立ち尽くすことだという自覚に託してマグノリアの樹を植樹する企画を実行しつつ、彼らとは異なる物質で思考してきた呻きにちかいものの伏流を、見える姿にすることである。
北澤一伯 Kazunori Kitazawa
1949年長野県伊那市生れ
発表歴
1971年から作品発表。74年〈台座を失なった後、台座のかわりを、何が、するのか〉彫刻制作。
80年より農村地形と〈場所〉論をテーマにインスタレーション「囲繞地(いにょうち)」制作。
94年以後2008年12月までの約14年間、廃屋と旧家の内部を「こころの内部」に見立てて美術空間に変える『「丘」をめぐって 死んだ水うさぎ』連作を制作。同期間、長野県安曇市穂高にある民家に住みながら、その家の内部を「こころ内部」の動きに従って改修することで、「こころの闇」をトランスフォームする『「丘」〜』連作「残侠の家」を制作。
その他、彫刻制作の手法と理論による「脱構築」連作として
1998年下伊那郡高森町「本島甲子男邸36時間プロジェクト」がある。地域美術界に対する新解釈として「いばるな物語」連作。
戦後の都市近郊における農業事情を読む「植林空間」。
また、生家で体験した山林の境界や土地の権利をめぐる問題を、「境(さかい)論」として把握し、口伝と物質化を試みて、レコンキスタ(失地奪還/全てを失った場所で、もう一度たいせつなものをとりもどす)プロジェクトを持続しつつ、
95年NIPAF’95に参加したセルジ.ペイ(仏)のパフォーマンスから受けた印象を展開し、03年より「セルジ.ペイ頌歌シリーズ 」を発表している。2009年9月第1回所沢ビエンナーレ美術展引込線(所沢)
4th街かど美術館2009アート@つちざわ土澤(岩手県花巻市)
2012年6月「池上晃事件補遺No5 刺客の風景」(長野県伊那北高校薫ヶ丘会館)
7月「くりかえし対立する世界で白い壁はくりかえしあらわれる 固有時と固有地」 連作No7(長野市松代大本営地下壕跡)
2015年Nine Dragon Heads(韓国)のメンバー企画として第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展にて展示。
同年7月、Nine Dragon Headsに参加。韓国水原市にVoid house(なにもない家)を制作した。
2016年6月「いばるな物語」連作の現場制作。 伊那北高校薫ケ丘会館
2016年10月個展 「 段丘地 四徳 折草 平鈴」 アンフォルメル中川村美術館(長野県上伊那郡中川村)
2017年9月:Nine Dragon Heads(韓国)のTASTE of TEAの企画として第15回イスタンブール・ビエンナーレにてVoid house連作を制作。
2017年11月~12月:ナガノオルタナティブ2017「Prevention」05 北澤一伯展「場所の仕事」にて“光の筏”を現場制作。
FLATFILESLASH/ Warehouse GALLERY(長野県長野市)
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