二泊三日の念彼観音力

文 / 今井あみ

みょうがの近くにはみょうがが生えている
わらびの近くにはわらびが生えている

「黒い雲があるけどすき間からピンク色が覗いているから明日は晴れるわね。」
「ようやく溜まってた洗濯物が外で干せるわ。」

「それがね、うちで採れた大根を今まで卸していたスーパーが引き取ってくれないのよ。」
「うちもこの前採れたトマト引き取ってもらえなかったのよ。」
天気を予測したあと、近所のスーパーについて意見を交わす夕暮れ時の露天風呂

床に落ちたきゅうりは水で洗えば食べられるけど
こぼれた牛乳は水で洗うとなくなる

光った雷は6秒後に音を鳴らしたから、まだ遠いって安心していた
そしたら、次の瞬間目の前に落ちるとか
電子レンジがチンって鳴ったから急いで行ったら、棚に足の小指を引っかけるとか
一瞬にして今が変わる
長いこと考えていた問題は雷と同時に頭から姿を消していたり、
頭が痛かったはずなのに、ぶつけた小指の方が痛くなって、蒸したタオルを取り忘れたり、
変えようとしても変わらなかったことが、
変わってほしくなくてそーっとしていたことが、
スコーンッと一瞬で今をかっさらって、変わる
ポンッと一瞬で未来を置いていって、変わる

止まった心臓はもう自然には動き出さないし
死んだ細胞は生き返らない

大体の雨の降り始めは優しい
雨だよーってお知らせしながら粒を徐々に増やしていく
もっと優しい雨は粒を落とす前に匂いでお知らせしてくれる
そうやって、雨に濡れない方法を探す時間を与えてくれる

ゲリラ豪雨は突然ジャバーンッて降るから、諦める
ビチョビチョになった靴と服で歩けば、もう濡れない方法を探さない

そのあと、雨に濡れないようにって雨宿ったのに少しだけ濡れた肩が気になった
ビッチョリ濡れたときは、清々しい

あぁもったいないもったいない
一滴も無駄にしたくないって水浸しになったスポンジがボタボタと水を垂らしている

「君はここへ来たばかりなんだから、分からないことは分からないって言いなさい。これは何ですか?って。」
夏の町工場から聞こえてきた

今井あみ Ami Imai
1990年長野市生まれ
表現する人
表現することをつづけるため、まいにちを過ごしている
imaiami1990@gmail.com
imaiami.net